少年の部屋。
そこは殺風景な、一人暮らしの部屋だった。
あの後、チョコ猫は牛乳を頂いて帰ったらしい。

前編は2月上旬の話。

後編はその、十数日後の話。



チョコ猫は、再びその部屋を訪れた。
今度は、猫ではなく……水那 冴兎として。

冴兎はその部屋へ通じるドアの、インターホンを押した。
「…冴兎先輩?」

インターホンを押すと同時に、後ろから声をかけられた。

「…何でここの場所、知ってんだよ。」

「…前に来たことがあるからな。…ちょっと話がしたいんだけど、時間ある?」

「…まぁ、あるっちゃあるけど…。」

「じゃあ、中に入れて。…お前と違って、寒いんだ。…鈴。」

風屋 鈴が、そこに居た。




そこは相変わらず殺風景な部屋。
だが、観葉植物がやけに多かった。

「あ、お気遣いなく。…ココアで良いよ。」

「Σ出せってか?!…図々しいな先輩…(汗)」

言いつつも、ココアをいれに行く鈴は律儀。

「で、何の用だ?」

「……うん。…鈴には、言っておきたい事が2つあって。」

「ん?…何だよ。」

「…1つは……ちょっと前に、チョコレート色の猫をこの部屋に連れて来た事があっただろ?」

「うん。…………え?…まさか……」


鈴が言うのと、冴兎が猫変身するのが同じタイミング。
鈴は呆然とチョコ猫を眺め、直後頭を抱えて落ち込んだ。
そりゃそうだろう。可愛いチョコ猫がもうすぐ19の男だったんだから。

冴兎は直ぐに人に戻り。

「察すのが早くて助かる。」

「……俺、あの時何したっけ…。」

「…あんま、そういう事考えない方が良いぞ?」

「……っ…orz
 で、話はそれで終わりか?もう1つは?」


そう聞く鈴に、冴兎は一瞬口を噤んだ。


「……?…何だよ。」

「……もう一つは…言っておかなきゃならない事。
 鈴…金重に気があるだろ?」

「……は?」

急に鈴の顔が赤くなる。
それを見ながら冴兎は、こんな分かりやすいヤツが身近にも居たな…と自分の彼女を思い出していた。

冴兎は更に言葉を続ける。

「話と言うのはほかでも無い。


 …俺と、金重の関係についてだ。」


「……関係?」

「…鈴には、知っておいて欲しい。…良い話では、無いけどな。」



そういって一息つくと、冴兎はゆっくりと話を始めた。


去年のバレンタインに静月と金重に告白されたこと。
去年のクリスマスまで返事を引き延ばして、最後には静月を選んだこと。
金重は自分と同じ家に住んでいること。

出来るだけ事実のみを、簡潔に。
…それでも、何時間かかかってしまったので、ここでは割愛しておこう。
詳しく知りたい人は、イベシナとか茶室とか覗いてみると良いと思うよ!
殆どログなんて残っていないけど。


「…喋り疲れた。」

全てを話し終わった冴兎は、出されたココアを一口飲んだ。
鈴はそれを難しい表情で見ていた。



「…で、何?」

「…それだけ。」

「…なんだよ、それ。」

「………。」

冴兎は無言で、無表情で…でも、話し疲れたせいか、気だるげに鈴を眺めている。
それが、鈴の癇に障った。

(何だ、こいつ。
 平気な顔して…表情変えずにこんな話するかよ普通……ムカつく。)

「…自慢話か?」

「…違う。」

「…じゃあ何だよ。」

「…鈴が金重と付き合うかどうかは…あまり興味がないけど。
 付き合うなら…金重を、幸せにしてあげて。」

「……なんだよ、それ…。…なんだよそれ!
 …だったら、お前がしてやれよ…!ナズナは辛いって泣いてたぞ…。」

「俺には…他に、幸せにしないといけない人が居るから。」

「だったら、最初から…好きじゃないなら断れば良いだろ。」

「…2人共、好きだったんだ。それに…最初に、2人共…断った。」

「2人共好き?何だそりゃ。…気を持たせるような事したんなら変わんないんじゃねぇの?
 そうやって今まで2人共傷つけてきたんだな?」

「……。…そうだな。」

「……最低だな、お前。」

「…あぁ、俺は最低だ。」

あっさりと、冴兎は肯定した。
そんな冴兎に、鈴はますます腹がたった。

「そうやって…傷つけて…ナズナの気持ちも知らないで…!」

「…。…本当に、そう思っているのか…?」

一瞬、空気が張り詰めた。
鈴は背筋が凍りつく。
相変わらず真っ直ぐに鈴を見詰める冴兎。
…鈴は、振り切るように責めた。

「俺は同時に2人を好きになった事ねぇからわかんねぇな。」

「…………そうだな。」

冴兎は冷静に、鈴を見詰める。
少しの間の後、張り詰めた空気が少し解ける。
冴兎は目を伏せ、言葉を続けた。

「…俺は不器用だから、2人を幸せには出来ない。
 2人共悲しませるか…どちらか1人を幸せにするかしか、出来ない。
 約1年かけて、やっと気付いた。」

ゆっくり目を瞑ってから、また同じように鈴を見つめる。

「俺には、金重の希望に沿う度量がない。…鈴には、あると思うけど?」

「なんだそれ…俺とは殆ど会ったばっかだろ?何でそんなのが分かるんだよ。」

「…鈴の家、一人暮らしだろ?」

「…そうだけど。…それが何だよ?」

「……あれ。」

そういって冴兎が指差したのは……ココアの粉の缶、400g入り。
400gと言ったら、ファミリー用として買う人も多い。
そのくらいの量だ。

「…あれが、何?」

鈴が怪訝な顔をする。
…冴兎は無表情で、淡々と…言ってのけた。

「…鈴が、良いヤツである証。」

……訳が分からない。

(…ココアの粉を持ってるやつは皆良いヤツって事か?
 一人暮らしで持ってるから、ココア好きと見られてるか?
 でもココアが好きだってそうはならないだろ…。)

「…ココアは、幸せを願う飲み物だ。…鈴は、良いヤツだ。」

冴兎は真顔で鈴を見詰めながら話す。

(…幸せを願う飲み物?…そんな馬鹿な。)

だが…その言葉には、何か裏があるような気がして、鈴は反論する気になれなかった。
思い返してみれば、ナズナと仲良くなれたのは、そばにココアがあったからな気さえして来る。
実際は…よく思い出せないが。
なんせ、今じゃナズナの事しか覚えていない。

(…あぁ、そうか。俺は…
 恋に…落ちちゃったのか…。)

そこまで考えて。…鈴は冴兎に向き直り、言った。

「…ナズナは幸せにする。…でも、お前のためじゃない。
 ……俺のためだ。」

「…良いよ。…金重を幸せにしてあげて。」

「…なんか腑に落ちねぇな…(汗)」

「…そう?」

「……いや、考えるのはやめだ。…頭痛くなってくる。
 …先輩も、用が済んだらとっとと帰れよ。」

「…ココア、おかわり。」

「Σ帰れよ!!」


渋々帰る冴兎の背中を見送った後。
鈴は数時間前まで揺らいでいた想いを固め、決心した。


…先輩と付き合わなくて良かった…と思わせてやる。
あんなヤツ、ナズナの心から蹴り出してやる。
…ナズナを…誰よりも幸せにしてやる。



……その後、鈴がナズナに告白したのは…約1週間後の話。